頸髄症:手の使いにくさと歩行の不安定さ
頸髄症は、首の部分で脊髄が圧迫されることで起こる進行性の疾患です。手の細かい動作、バランス、歩行に影響することがあり、早期の認識と評価が重要です。
執筆・監修:ラウ・ロクリム医師(Dr Lau Leok Lim)
整形外科・脊椎外科 シニアコンサルタント
MBBCh ・ MRCS(エディンバラ) ・ MMed(シンガポール国立大学) ・ FRCS(エディンバラ)
シンガポール保健省 専門医登録番号:11302F ・ Orthopaedic & Hand Surgery Partners ・ Gleneagles Hospital ・ シンガポール
原稿(英語版)公開日:2025年9月3日原稿(英語版)最終監修日:2026年4月21日日本語版公開日:2026年8月21日
ある患者さまの例
68歳の男性の方は、まっすぐ歩くのが難しくなり、無意識のうちに横にずれてしまうことに気づきました。シャツのボタンをとめる、箸を使うといった日常の動作が、思ったようにできなくなっていました。
変化が早いことを心配した奧様がかかりつけ医へ連れて行き、症状の重要性を認識した医師が脊椎の専門医を紹介しました。診察と画像検査の結果、頸髄症と診断されました。

よくみられる症状
- 首のこわばりや張り
- 手の使いにくさ、細かい動作の困難さ
- 歩行の不安定さ、バランスの問題
- 腕や手の筋力低下、しびれ、協調運動の低下
- 筋のつっぱり感、反射の亢進
ボタンをとめる、箸を使う、字を書くといった動作がやりにくくなった場合は、早めの受診をおすすめします。
リスク要因
- 50歳以上(加齢に伴う変性)
- 先天的な頸椎の脊柱管の狭さ
- 後縦靳帯骨化症(OPLL)
- 過去の首の外傷や不安定性
- アジア系の方(OPLL の頻度が高い)
- 骨格系の発育異常を伴う疾患
主な原因
- 変性性頸椎脊柱管狭窄症
- 椎間板ヘルニアや膨隆による脊髄の圧迫
- 骨棘による脊柱管の狭窄
- OPLL による進行性の圧迫
- 外傷、不安定性、靳帯の肥厚
診断の方法

- 神経学的診察(反射、歩行の評価、ホフマン徴候など)
- 頸椎 MRI による脊髄圧迫の評価
- CT による骨性の狭窄や OPLL の評価
- 必要に応じて電気生理学的検査
頸椎神経根症を伴うこともあります
頸髄症の方の一部には、頸椎神経根症を合併する方がいます。頸髄症は脊髄が圧迫され、手の使いにくさや歩行の不安定さを生じます。一方、神経根症は神経根が圧迫され、腕の痛みやしびれ、筋力低下を生じます。
両方が重なると、腕の痛みやしびれと、バランスの問題や手の使いにくさが同時にあらわれます。この重なりを見分けることは、検査と治療の計画の上で重要です。
治療の選択肢
手術を伴わない治療
- 活動の調整と転倒リスクの軽減
- バランスと協調性に重点を置いた理学療法
- 筋のつっぱり感や炎症に対する薬物療法
手術による治療
- 前方頸椎椎間板切除固定術(ACDF)
- 後方頸椎除圧固定術
- 椎弓形成術(脊椎の動きを残す除圧)
日常生活での注意点
頸髄症のある方は、脊髄損傷のリスクを下げるために次の点にご注意ください。
- 転倒を避ける。段差や滞りやすい場所に注意し、手すりを使ってください。
- 首を強く操作しない。強いマッサージや首の矯正は避けてください。
- 不安定なときは杖を使う。転倒のリスクを下げられます。
- リスクの高い活動を避ける。コンタクトスポーツ、重いものを持ち上げること、急な首の動きなどです。
よくあるご質問
なぜ手術が必要になるのですか
頸髄症が中等度から重度に達した場合に手術をおすすめします。この段階では脊髄が十分に圧迫されており、急な悪化のリスクがあります。転倒や急な首の動きによって、麻痺を含む重い脊髄損傷を生じることがあります。手術は脊髄の圧迫を取り除き、神経機能のさらなる低下を防ぐことを目的とします。
手術でどの程度よくなりますか
多くの方で、手の協調性、バランス、歩行の安定性に意味のある改善がみられます。回復の程度は、圧迫の重症度と症状が続いていた期間によって異なります。手術の主な目的はさらなる悪化を防ぐことであり、脊髄の回復に伴って数か月かけて徐々に機能が改善する方も多くいます。
このページは一般的な医学情報であり、個々の症状に対する診断や治療方針を示すものではありません。診断および治療は、診察と検査の結果に基づいて個別に判断されます。
